22歳の恋、そして廃人へ

 

「泣きたくても泣けない」って
本当にあったんですね。

 

いろんな感情が混ざってしまって
ただ泣くには遅すぎたようです。

 

 

 

 

 

僕は高校の学祭でつけた自信を生かすべく
大学に入ってからも音楽を続けました。

 

 

 

僕はずっと、自分の弱いところや汚いところを
さらけ出すのが極端に苦手でした。
友達ができなかったのもそのせいだと思っています。

 

でもいざ音楽の中へ飛び込めば、
臆病な自尊心も軽薄な利己心も
いずれごまかすことなどできません。
わかる人にはわかってしまいます。

 

しかし、それも含めて評価してくれる人がいれば
自分の弱さすら自信に変えることができます。

 

ただ歌うことやギターを弾くのが好きだったのが、
自分の世界を作ることに夢中になっていきました。

 

いつしか、自分のアイデンティティのすべてを
音楽の中に求めるまでになっていきました。

 

 

 

 

 

そんな大学2年生の8月のある日。
大学のサークルで結成したバンドで
出演したライブハウスで、

 

自分のバンドの出番が終わって
フロアで他のバンドの演奏を
聴いていたときのこと。

 

 

 

ひときわ異彩を放つバンドが
そのステージ上にはいました。

 

華やかで甘美なのですが、暗くて閉じていて、
子供のように純粋な敵意をつきつけるものでした。

 

同じ人間であることはわかりましたが
とても日本人には見えない風貌をしていました。

 

 

 

高校の後半以降、発言も行動も
派手になっていった僕でしたが、

 

根本にあるのは内向的なものでした。
中2病と呼ばれるものです。

 

中2のときは健全そのものだったんですけどね。笑

 

 

 

そんな病を現在進行形で発症していた僕は、
その禍々しい呪いのようなステージを前にして
直感的に「これは運命的なやつだ」と
強く強く確信したのです。

 

 

 

そして、そのバンドの演奏が終わるとすぐ
急いで控え室に引っ込んで
ステージから撤収してきたメンバーに
興奮のままに感想を伝えました。

 

 

 

 

 

「頭おかしいです!」と。

 

 

 

当時の僕からすると、
これは最上級の賛辞だったのですが、

 

しばらくあとになって
「あの時はカチンときた」
「いきなり何だこいつはと思った」
と聞かされて衝撃を受けました。

 

 

 

 

 

ともかくこうして、
このバンドとの交流が始まりました。

 

このバンドと、というのは
正確ではないかもしれません。

 

 

 

最初はバンド同士での付き合いでした。
一緒のイベントに出演したり、
お互いのライブに行ったりきたり。

 

そのうちに、メンバーのある女の子と
個人的に親しくなっていきました。

 

 

 

CDや映画のおすすめを貸しあったり、
一緒にカラオケに行くようになりました。

 

彼女は仕事をしているうえに
休みはライブのことが多かったので、
そうひんぱんではありませんでしたが。

 

 

 

それが月にたった一度のことでも、
次に会う約束ができるたびに
それまで何週間もの日々が
ぱっと明るいものに変わるような、
僕にとってそんな存在でした。

 

 

 

そんな日々を過ごしていたその冬。
ある日、彼女から電話がきました。

 

 

 

どこか様子がおかしいです。

 

詳しく聞いてみると、

 

 

 

もともとは実家に住んでいたが
家庭環境が複雑でとてもいられたものではない。

 

そのため何ヶ月か前に実家を出て
付き合っている彼氏と一緒に住んでいた。

 

しかし彼氏はひんぱんに怒鳴ったりする。
雰囲気も険悪でこれ以上いられない。
しばらく避難させてもらえないか?

 

 

 

…とのことでした。

 

 

 

どれだけ無謀になれるかに
価値を見出していた当時の僕でさえ、
あまりの急展開に面食らいました。

 

バイトしていくらか稼いでいたとはいえ、
親に仕送りをもらって生活している身です。
さすがに即答はできなかったので、
考えるのに時間がほしいと伝えました。

 

すると彼女は、

 

「やっぱり大丈夫、いきなりごめんね」

 

と申し訳なさそうに言って、
それきりその話はしませんでした。

 

 

 

しかし僕はこのことを機に、
ますます彼女のことを知りたくなりました。

 

 

 

明るいのに悲観的で、社交的なのに人嫌い。
愛嬌の塊みたいな振る舞いをしながらも
自分自身をひどく嫌っていました。

 

変わってる、病んでる、
言ってしまえばそれだけですが、
もっと知りたい、見たい、
人間だって捨てたものでもないことを
この身をもって教えてあげたい、

 

…彼女を救ってあげたい。

 

 

 

独りよがりな動機でしたが
そんな想いに突き動かされるように
底知れずはまり込んでいきました。

 

 

 

そしてその想いは実を結ぶことになります。
大学4年になる春のことでした。

 

 

 

 

 

僕のところへやってくることになりました。
例の彼氏の家を出て。

 

決まってから実際に移ってくるまで、
1週間とかかりませんでした。

 

 

 

荷物(ほとんど服でした)を詰めた
たくさんのゴミ袋が運び込まれます。

 

すっきりしていたはずの1Kの部屋は
見慣れないものでいっぱいになりました。

 

そして、急に増えた荷物より何より
僕の部屋に、彼女がやってきました。

 

彼女の誕生日の3日前のことでした。

 

 

 

 

 

希望でしかありません。

 

このころには彼女が抱えていた
精神的な病気のことも聞いていましたが、

 

完全に舞い上がっていて
少しの不安さえ感じませんでした。

 

 

 

新しい生活が始まってみると、
夜ごとに過呼吸を起こす彼女を
落ち着かせるくらいでした。

 

 

 

そんなことよりも。

 

たまに会うことができるだけで
それを糧にしばらく生きていける、
それだけで十分と思っていた存在です。

 

朝起きて「おはよう」を言いあう、
「行ってきます」「行ってらっしゃい」
「ただいまー」「おかえりー」、
作ってくれたご飯を食べる、
一緒に歯をみがいて寝る支度をする、
そして抱き合って眠る。

 

生活の一つ一つが嬉しくて仕方ありません。
何度「幸せだ…」と口に出したでしょう。

 

 

 

幸せな生活でした。
生きててよかったと思いました。

 

自分が「幸せだ」「生きててよかった」
なんて思っていること自体、
自分の人生ではないようでした。

 

 

 

 

 

ところで。

 

実は、この時点でまだ例の彼氏とは
別れていないことになっていて
僕は「同居人」ということになっていました。

 

もちろん男女が一緒に暮らしていれば
自然とそういう関係になります。
一緒のベッドに寝ていましたし。

 

 

 

彼氏には何と言っていたのかわかりません。
「バレたら殺される」とまで言っていたので
嘘をついていたのでしょう。

 

この同居生活を知っているのも、
ごくごく身近な人だけでした。

 

それでもまだ、希望はありました。
この関係をはっきりさせて
秘密にしておく必要もないように、と。

 

 

 

 

 

しかし。

 

問題はそれだけではありませんでした。

 

 

 

生活に慣れてくると、彼女の病気が
僕を試すようになってきます。

 

さらに彼女には、
たくさんのNGワードがありました。

 

過去のトラウマに関するものや、
「僕が彼女のせいで何か嫌な思いをした」
と少しでも思わせてしまうような発言
(例えば一緒に街を歩いていて
「人ごみ疲れたー」と言ったとき)など。

 

見えない知らない、でも踏んだらアウト。
僕にとっては「地雷」そのものでした。

 

 

 

でも、そんな戦地にも慣れてしまうものです。
地雷をよけながら伝える言い回しが
しだいにうまくなっていきました。

 

よけるのがうまくなったことで
僕は「成長した」と思っていました。

 

 

 

しかし実際は、
自由を狭めていくものでした。

 

 

 

やがて僕は疲れていきます。
要求に合うような振る舞いをすることに。

 

しかし、だからと言って
少しでも疲れた様子を見せてしまえば、
「あたしが疲れさせてしまった」となって
一発でゲームオーバーです。

 

それは嫌です。

 

 

 

笑っていようと心がけます。

 

 

 

 

 

心がけました…が、
とうてい無理でした。

 

 

 

彼女も気づかないはずはありません。

 

今までにも同じ経験をしてきたんですから。

 

 

 

さらに。

 

彼女のバンドが県外に遠征したときに
共演したバンドのWという男。

 

僕も彼女に薦められてこのバンドのCDを聴いたり
ライブに行って話したこともありましたが、

 

このWが彼女と急速に仲良くなっています。
というか、彼女があからさまにウキウキしています。

 

 

 

どれくらいかと言うと、
Wからのメールの着信音が鳴ると
そのときしていることをすべて放棄して
携帯に走って駆け寄るほどです。

 

 

 

あろうことか愛し合っている途中に
着信音が鳴って中断したことも。

 

もはやコントか何かの域です。

 

 

 

 

 

このあたりになると、
かろうじて保っていると言う状態でした。

 

 

 

自分以外にはけ口がなかったので、
彼女が先に眠ったときに何度か
タバコの火を足に押し付けました。

 

ソファやベッドの定位置のおかげで
左足は彼女からは見えないので
左ひざの外側にばかり。

 

押し付けるたびジッと皮膚が焼けます。
血が出ないので好都合でした。

 

 

 

自分の体を傷つけようだなんて
それまで考えたこともありませんでした。

 

何の解決にもなりませんし、
そもそも痛いのは嫌です。

 

 

 

溜まりに溜まった不満や悲しみを
彼女ではなく自分に向けて解消することが
カッコよくさえ思えてきて快感でした。

 

赤黒い跡が日ごとに増えていくことで
強くなっていくような錯覚をしました。

 

もはや愛情なんかではなく
終わらせたくないためだけでしたが、
このときはこうすることしかできず
どうにか気を落ち着けていました。

 

 

 

 

 

でも、つらいことばかりでもありません。
そんな日々を持ちこたえて8月、
花火大会の日がやってきました。

 

ずっと楽しみにしていた日です。
彼女が浴衣を着るというので。

 

 

 

夕方に近づくにつれ、
近所がにぎやかになってきました。

 

僕の住んでいたアパートは、
打ち上げ場所から直線で500mほどで、
窓からでも花火が見えるくらいでした。
屋台の出店も並んでいます。

 

 

 

そして。

 

浴衣に着替た彼女を見たとき。
がんばったのが報われてよかった、
とさえ思いました。

 

 

 

 

 

しかし。

 

花火の開始が迫ってくると
楽しそうだった彼女の顔色が曇ってきました。

 

 

 

開始の直前になって突然、
彼女がこんなことを言い出しました。

 

 

 

「G(共通の知り合いだったバンド)
のみんなと一緒に見に行くね。」

 

唐突すぎて意味がわからなかったので、
どういうことか聞いてみると、

 

 

 

付き合っているわけじゃないから
一緒に花火を見ることはできない。

 

まして外に出るなんて、
誰に見られるかわかったものではない。

 

でも、せっかく浴衣を着たのだし
外に行って見たい。

 

だから、僕ではない、見られても無害な誰かと
見に行くことにする。

 

 

 

 

 

ということでした。
すばらしい三段論法です。

 

 

 

悲しいとも悔しいとも情けないとも、
あるいは全部なのかわかりませんが、
感情がこみ上げてきます。

 

そこまで言われてしまった以上は
楽しく花火を見ることなんてできないので、
僕は精いっぱい強がって、
彼女の好きなようにさせました。

 

 

 

浴衣姿の彼女が出かけて行きます。

 

 

 

 

 

暗くなってくる部屋に僕だけが残りました。

 

打ち上げ開始の時刻が近づいてきます。

 

 

 

 

 

窓の外に人影が多くなってきて

 

楽しそうな声が窓の向こうで笑っています。

 

僕の部屋は通り沿いの1階です。

 

 

 

花火の炸裂音が響き始めます。

 

そのたびに歓声が上がります。

 

花火の閃光が部屋に入ってきます。

 

 

 

 

 

…僕は何だったんだろうな。

 

もう意識なんて消えてなくなればいいと思いました。

 

 

 

見たくないのでカーテンを閉めました。

 

聞きたくないので音楽を大音量で流しました。

 

もう考えたくもなかったので、
家じゅうのアルコールを集めてきて
すべて飲んでしまいました。

 

 

 

すべてが遠くなっていきます。

 

アルコールの力は偉大でした。

 

 

 

 

 

 

 

どれくらい時間が経ったのか
わかりませんでしたが目が覚めました。

 

 

 

ベッドの上で寝ていたはずが、
なぜか床でうつ伏せになっています。

 

目の前には、髪を上げるカチューシャが
二つに割れて転がっています。
さっきまで僕がしていたはずですが。

 

暗かったはずの部屋は、
蛍光灯が白々しく輝いています。

 

 

 

彼女が帰ってきていました。
どうやら花火は終わったようです。

 

僕はもうどうでもよくなっていたので
「おかえりー」と声をかけました。

 

 

 

しかし彼女はひどくおびえていて、
過呼吸で話ができませんでした。

 

 

 

落ち着くのを待って聞いてみました。

 

帰ったら僕が寝ていて、
様子がおかしいと思って起こしたが
いくらゆすっても起きなかった。

 

そして、ベッドから落ちてしまった。
はずみで頭を床に打ち付けたが、
それでもしばらく目を覚まさなかった。

 

 

 

僕が死んでしまった、あたしが殺してしまった、
と思ったそうです。

 

 

 

もちろん死んでなどいなかったんですが
罪悪感に耐えられなくなった彼女は、
この夜出て行ってしまったきり
しばらく帰ってきませんでした。

 

 

 

そして彼女が帰って来たのは
数週間後のことでした。
おびえた様子などはなく、
表情もいつもどおりに戻っていました。

 

納得のいかないところはありましたが、
それでもこの生活を続けたい、
その気持ちのほうが強かったです。

 

 

 

ところが彼女は、
一人暮らしを始めるとのこと。
それまで実家や誰かの家だったので、
これが初めての一人暮らしです。

 

それを聞いて僕は驚きましたが、
この関係が終わりにならなければ
それでもいいと思うことにしました。

 

 

 

しかし、帰ってこなかった数週間のうちに
Wに会いに行っていたことを知りました。

 

一緒の部屋で過ごすのも残り少ないので、
楽しくいられたらよかったのですが、
そうもいきませんでした。
僕の言動に悪意が混じるようになりました。

 

 

 

そして僕の部屋を出て行く日。
花火大会からちょうど1ヶ月でした。

 

本来だったら僕の部屋に来る前に
それまでの関係を清算させるべきだったのを
はっきりさせずにだらだらしてしまったこと、
そのツケを払うべく聞きました。

 

 

 

「君にとって、僕は何だったの?」と。

 

 

 

そうしたら。

 

 

 

 

 

「初めから、好きとかそういうつもりじゃなかった。

 

勘違いさせちゃったのは悪かったよ。」

 

 

 

これが答えです。

 

 

 

もう、言葉が出てきませんでした。

 

 

 

 

 

その日、荷物を運び出した彼女を
背中で見送ったあとの部屋で一人。

 

泣き叫びたいくらいでしたが、
涙の一滴も出てきません。

 

 

 

空しすぎて。

 

 

 

もう泣くことくらいしかありませんでしたが、
それすらできませんでした。

 

感情がたくさんありすぎて、
意味がわかりませんでした。

 

 

 

大学の夏休み中だったのが幸い、
それからしばらく僕は

 

眠るために酒を飲んで、
夜になったら起き出して
ヘッドフォン爆音で音楽を聴きながら
どこへともなく朝まで何時間も歩いて
帰ってきてまた酒を飲んで眠って…

 

ただそれを繰り返すだけの
ひどい生活に明け暮れていました。

 

 

 

このごちゃごちゃした感情と
目を合わせることなく逃げるために。

 

 

 

1ヶ月くらいたったあたりで
ようやく落ち着いてきました。

 

音楽に向き合うことも再開しました。
もともと暗い曲ばかり作っていましたが、
このころは輪をかけてひどかったです。笑

 

 

 

そしてひと冬かけてじっくりと
穏やかな生活を取り戻していきました。

 

 

 

そして、改めて音楽とともに生きることを決意した僕は
一切の就職活動をしないまま大学を卒業して
4月にようやく派遣会社に駆け込んだ結果、
4年にも及ぶ派遣社員生活をスタートしたのでした。

 

 

 

 

 

…ちなみに。

 

 

 

彼女のことを恨んでいないといえば
まったくの嘘になってしまいます。

 

7年経ってこれを書いている今でさえ、
順を追って思い出しているうちに
幸せも悲しみも空しさも一通りの感情を
追体験するはめになってしまいました。
(思い出したのは完全に僕の勝手ですが…)

 

 

 

しかしながら。

 

僕が望んで関わった人ですし
こうならない方法もあったはずなので
すべては自業自得です。

 

 

 

ただ、あんなに深く幸せを感じたことも
二度と立ち直れないと思ったことも
今のところ、あとにも先にもありません。

 

それぐらい夢中になることができたのは
幸せなことなのかもしれない。

 

 

 

…と、考えられないこともありません。
今でこそですが。

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プロフィール



羽村悠志

北海道に帰ってきた
超インドア派の29歳。
地元は帯広、今は札幌。

SRV250Sに乗っています。
好物は音楽とマンガです。

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