遅すぎた高校デビュー、さらに迷走

 

高校2年生の冬のことです。
体育館で練習していたある日。

 

依然として強くもうまくもなりません。
センスがないのは気づいています。
でも、何とかするしかありません。

 

他の誰が悪いでもないですが、
自分ではどうしようもない気分でした。

 

 

 

練習が一段落ついた合間、
トイレに行きました。

 

そして鬱屈した感情を吐き出すべく、
かかとで壁を蹴り下ろしました。
コンクリート相手に手加減はいりません。

 

 

 

 

 

ところが。

 

バコン!と予想外の音が響きました。
外の廊下で残響しているのが聴こえます。

 

 

 

 

 

見るとそこには、
大きな穴が空いていました。

 

 

 

容赦なく蹴ってしまった壁は、
コンクリートではありませんでした。

 

 

 

ぽっかりと空いた穴の向こうは、
真っ暗な空洞になっています。

 

 

 

 

 

…やってしまった!!!

 

 

 

 

 

急いでその場を立ち去りました。
離れてしまいさえすれば、
誰がやったかなどわかるはずがありません。

 

 

 

そ知らぬふりをして練習に戻り、
いつもと同じように振る舞いましたが、

内心はすごく動揺していました。
感情にまかせて物に当たって壊すなんて、
それまでしたことがありませんでした。
ましてや、学校の壁です。

 

 

 

 

 

そして翌朝のホームルーム。
さっそくその話になりました。

 

僕の通っていた高校は4階建てで、
2階から4階は学年ごとに分かれていました。

 

僕が壁を壊したトイレは、
学年の割り当てがない1階でした。

 

そして、同じ校舎で夕方から
定時制の授業もあります。

 

そのため、犯人の学年どころか
全日制の生徒かさえわからない、
といった様子でした。

 

 

 

ホームルームが終わったあと聞こえた、
「定時制じゃない?」という誰かの声。

 

 

 

そうです。

 

黙っていれば済むことです。

 

でも、だんだん心が淀んでいくような気がしました。

 

 

 

昼休みにはもう我慢ができなくなって、
こっそり職員室に行って白状しました。

 

担任がすごく驚いていました。
まさかこんなおとなしい奴が、と。

 

 

 

部活の顧問とも話をしました。
自分が悪いことをしたにもかかわらず
優しい言葉をかけてもらってしまい、
目を潤ませて話を聞きました。

 

 

 

 

 

そして僕は、キャプテンを降ろされました。

 

情けない気持ちでいっぱいでしたが、
ちょっと楽になったのも確かでした。

 

そして平部員のまま3年生を迎えます。

 
高校に入学・ソフトテニス部に入ったころは
大学受験のために3年の春にはやめようと思っていました。

 

しかし、実際に3年生になった春には
そんな発想はもう跡形もありませんでした。

 

 

 

僕の高校のソフトテニス部は代々、
個人戦の成績に対して団体戦が強かったです。

 

団体戦といってもダブルスが3組になるだけ、
何かルールが変わるわけではありません。

 

でも、2年間もやってきたので
その理由はなんとなくわかります。

 

 

 

 

 

高校ソフトテニス最後の大会の地区予選。
1日目の個人戦は僕のペアも含めて

一つも残れませんでした。

 

 

 

2日目の団体戦に望みを託します。

北海道大会に進めるのは2校。

 

まずはトーナメントで絞られて
上位4校に残ることができました。

そして決勝リーグで順位を決定します。

 

ここから試合の内容は覚えていません。

ただでさえ枯れやすい声だったのが
自分の試合と応援で叫びまくったせいで
まったく出なくなってしまいました。

 

 

 

そして結果は3位に終わり、
あと一歩で届きませんでした。

 

 

 

 

 

終わって解散したあとの帰り道、
涙と鼻水でグシャグシャの顔で
力なく自転車をこいでいたら

 

うしろから抜かしざまに声をかけてきた後輩が
僕が誰にも見せたことのないひどい顔を目にするや
黙って去っていきました。

 

 

 

あとにも先にもないくらい
帰ってからいつまでも泣いていました。

 

さらに数日、ただぼんやりしていました。
今まで体力気力を注いでいたものが
まったくなくなってしまったので。

 

 

 

 

 

しかし、すべてが終わったわけではありません。

 

 

 

早々に気持ちを切り替えて、
大学受験に立ち向かわなければいけません。

 

なのに、打ち込んできた部活が終わってなお
まだそんな気になれませんでした。

 

 

 

それからほどなくして、
学祭に向けて準備が始まりました。

 

僕の高校の学祭は3日間あり、
そのうち初日の主なイベントに
カラオケ大会のようなものがありました。

 

3年生からはクラスごとに2組出すのですが、
僕は立候補してまでそれに参加しました。

 

内向的なくせに目立つのが好き、という
面倒な性質を僕は持っていました。

 

 

 

僕は中3くらいからギターを覚えはじめて、
弾き語りで歌うようにもなりました。

 

家で勉強している以外の時間はほとんど
ギターを触っているくらい好きでした。

それは、僕が唯一といってもいいくらい
自信を持てるものでした。

 

 

 

僕が立候補したこと自体びっくりされましたが、
無事にクラスの代表に認めてもらえて、
参加者でのミーティングに出ました。
出演順などを決めるためです。

 

毎年このカラオケ大会の華である
“トリ”つまり最後を締めるのは誰か、
それが決まらずに話し合いは硬直します。

 

 

 

そんなとき、参加者の一人Kくんが
「悠志(僕です)なんかどう?」と発言します。
表情からは冗談半分であるのがわかりましたが、

そこで僕は発揮します。

 

 
「消極的な目立ちたがり屋」という性格を。

 

 

 

 

 

「誰もやらないなら俺やってもいいよ~」

 

 

 

そしてこの瞬間。

 

 

 

誰も別の案を出せない空気になってしまい、
何となしに僕がトリを務めることになりました。

 

 

 

あとで聞いたところによると、
僕がちゃんと人前で歌えるのか、
みんな心配していたそうです。

 

そして準備はあわただしく進められ、
ついに学祭が幕を開けました。

 

 

 

 

 

そして。

 

いよいよカラオケ大会が始まりました。

 

参加者それぞれ、形態もさまざまで
カラオケだったりピアノ伴奏がいたり、

そして僕はギター弾き語りでした。

曲が終わるごとに審査員が採点します。

 

 

 

楽しんで待っていられたらよかったのですが、
そんな余裕があるはずもなく、
発声練習したりトイレに行ったり、
のど飴をなめて発声練習をしたり…

そればかり繰り返していました。

 

直前になると逃げ出したい気分でしたが、
そうはいくはずがありません。

 

頼まれてもいないのに
目立つ役目を買って出たわけです。

 

 

 

 

 

僕の出番がやってきました。

もう覚悟を決めるほかありません。

 

できるかぎりの歌を聴いてもらおう、
目をつぶって歌いはじめました。

 

経験したことのない何百人もの前で
ステージ上にたった一人
浴びたことのないスポットライト、

目なんて開けていられませんでした。

 

 

 

途中、ギターを弾く手から
ピックが落ちてしまったりしましたが
最後まで精いっぱい歌いました。

終わってみるとあっという間です。

 

 

 

間があって拍手。

 

さらに冷やかしの声。

 

 

 

そして司会からの質問が始まりました。
何百人も前にしたステージ上、
軽快なトークなど自分にできないことは
それまでの短い人生でもよく知っていましたが、

 

ボケを要求されているのを
察することくらいはできました。
無茶振りもいいところです。

 

すべったら立ち直れない、と思いながらも
黙ってスルーすることなどできません。
渾身の力で返しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

(笑い声)

 

 

 

 

 

笑わせたのか笑われたのかわかりませんが、
そんなことはどうでもよかったのです。

ボケの要求が終わったことに
安堵する気持ちでいっぱいでした。

 

 

 

そして、最後の採点のときが来ました。
例年、トリは100点満点が出るのが恒例です。

 

今年もみんな空気を読んで、
100点をくれるに違いありません。

 

 

 

でも誰かが減点でもしたら…?
そう考えると怖くなってきました。

 

100点が出て当然というこの状況。
もしそうでなければ、
公開処刑に近いようなものです。

 

 

 

考えているうちに採点が終わって

得点が発表されました。

 

10人いる審査員の手元、
点数ボードに目を滑らせます。

 

 

 

 

 

 

 

10点10点10点10点10点…

 

 

 

 

 

100点。

 

 

 

この瞬間、僕はあまりにも遅い
高校デビューを果たしたのでした。

 

 

 

 

 

そして、この経験で自信をつけた僕は
この思い出を胸にしまって
受験勉強に取り組み始めます。

 

 

 

 

 

 

 

…とはなりませんでした。

この学祭を機に、僕は迷走を始めました。

 

遅い高校デビューを果たした僕は
調子に乗るだけにとどまらず、
一つの欲に駆られることとなります。

 

 

 

それは、女の子。

 

つまり、「彼女がほしい」と。

 

 

 

暴走すると止まることを知りません。
クラスの友達からの紹介や
中学の後輩からの紹介、
あまりよく知らないけどなんとなく…

 

 

 

と手当たり次第に女の子を追っかけます。
それはもうわかりやすいものでした。
相手からするとまあ迷惑な話です。

 

まあ、そんな軽薄な姿勢だったので
ことごとく失敗に終わってゆきます。

 

 

 

しかし、まだあきらめる気にもなりません。

そんな暴走を見るに見かねて、
1年生から僕を知っているFが言いました。

 

 

 

「お前、目を覚ませ」

 

 

 

目を覚ませ。

 

…そうだ、こんなことしてる場合じゃないんだった。

 

 

 

 

 

これ以上ないくらいシンプルな言葉でしたが、
僕が我に帰るには十分でした。

 

自分を見失ってしまっているとき、
本人はよくわかっていないものですが、

このときの僕もまさにそうでした。

傍から見ると何と浅ましかったことでしょう。

 

 

 

このFの言葉をきっかけにして
僕は煩悩をひとつ断ち切ることができ、
みごとに勉強マシンと転身を遂げました。

 

 

 

それからというもの、
友達が引くほどに徹底して
勉強のみの生活を送るようになりました。

 

 

 

 

 

そして11月末のある日。

2週間前に受けた試験の結果が
インターネット上で発表されます。

「AO入試」というものでした。

 

公開されたのは授業中だったので、
そのあとの休み時間に携帯で見ます。

 

まわりに人が集まってきます。
合格者の番号が並ぶページが開きました。

 

 

 

 

 

いくら探しても、

僕の番号は見つかりませんでした。

 

 

 

ない、とみんなに伝えると

申し訳なくなるくらい
シーンとしてしまいました。

 

目の前で不合格になってしまった人に
かける言葉などすぐには見つかりません。

 

 

 

覚悟はしていたつもりでした。

試験が2日間あったうち、
1日目は手ごたえがありましたが
2日目は自信喪失して帰ってきたので。

 

 

 

仕方ありません。
まだ一般入試が前期・後期ともあります。
最初からそのつもりでしたから。

 

とはいえ不合格です。
すっかりしおれてしまい、
ぼんやりと画面を眺めます。

 

 

 

 

 

 

 

すると。

 

 

 

「あった…!」

 

 

 

ありました。

 

 

 

 

 

途中で改行されている
僕の受験番号が。

 

 

 

シュンとなった空気は一気に明るくなり、
先ほどから集まっていた友達が
天井にぶつかりそうな胴上げをしてくれました。

 

 

 

しかし、気分よかったのも束の間、
次の瞬間には床に落ちていました。
そしてたくさんの足が僕を蹴っていました。

 

蹴った中にはあのFもいましたが。
痛くも何ともありませんでした。

 

思えばFの言葉あってのことでした。
蹴られ役くらい喜んで引き受けます。

もちろん、そういう趣味はまったくありません。笑

 

 

 

「嬉しすぎて夢かと疑う」なんて描写がありますが、
本当にあったんだなーとしみじみ感じました。

 

どんな罵声を浴びせられたとしても
きっとニコニコして聞いていられるような、
それくらい「無敵モード」でした。

 

 

 

 

 

こうして、11月末と早いうちに、

僕の大学受験は幕を閉じました。

 

 

 

ところで恩人のFはというと、

不合格に終わりました。

 

聞くと、受験勉強の気分転換に
パチンコに行ったりしていたらしいです。笑

 

 

 

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プロフィール



羽村悠志

北海道に帰ってきた
超インドア派の29歳。
地元は帯広、今は札幌。

SRV250Sに乗っています。
好物は音楽とマンガです。

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